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I wish... 番外編

Ring Ring? Tragicomedy (※) 1


私の名前は、石崎木綿子。
一年ほど前に結婚して、苗字が市瀬から石崎になりました。職業は、ただ今専業主婦です。
実は…私たち夫婦、待望の赤ちゃんを授かりました。
ずっと欲しいなとは思っていたのですが、なかなかできなくて…。主人ともいろいろ話し合って、結局自然に任せようと決めた直後でした。ちょっと想定外でしたが、もちろん二人とも大喜びです。

ただ、妊娠が判明した時期はちょうど年度末で、私が勤務していた幼稚園は入卒園シーズン真っ只中。
悪阻が始まり、体調が良くなかったのですが、みんな忙しくばたばたしている時に、どうしても休みたいと言い出せなくて、そのまま無理をしてしまったのが祟りました。
3月の末に切迫流産しそうになり、1週間の入院を余儀なくされてしまったのです。

元々私は学生時代にバレーボールをやっていた体育会系。
体力には自信があったし、大概のことは大丈夫だと高をくくっていたことは否定しません。仕事も、お腹が大きくなり動けなくなるギリギリまで続けるつもりでした。
でもある日、掃除の時に園児の椅子を数個まとめて抱え上げたあとで、出血をおこしてしまったのです。
同僚の先生がすぐに救急車を呼んで下さり、私はかかりつけの産婦人科のある総合病院に担ぎ込まれました。
さすがにちょっとこれはショックで、かなり凹みました。
もちろん、自分の体力を過信するからだと、周囲からは非難轟々です。

その日は、ちょうど夫の実家である石崎医院が休診だったこともあり、近くに住む義父母がすぐに様子を見に来てくれました。
その上、夫である剛さんは、私が救急車で運ばれたと聞いて、動転のあまり職場である病院から白衣のまま駆けつける始末。
後日、「みんなすごい慌てようで、こちらの方が驚いた」と言うと、実家の母に「皆さんに心配をお掛けしておいて、あなたは暢気すぎる」としかられてしまいました。

検査と処置の後、症状の軽かった私は四人部屋に入れられたのですが、そこでいつも診ていただいている主治医の先生と、夫、義父母が鉢合わせ。それに加えてこの病院の医院長先生や産科部長の先生等々も義父母の知り合いということで挨拶がてらお見えになり、一時はベッドの周囲が人で埋まるほどになりました。
多分あの時私がいた病室だけは、一時的とは言え、異常に医者の密度が上っていたことでしょう。


このような経緯で、急なことでしたが、私は4月末をもって退職させていただいたわけです。
園長先生をはじめとして、職場の皆さんには本当にご迷惑をおかけしました。
ただ、すでに私の産休、育休が予定に入っていたため、後任として予め4月から新卒の先生を数人採用していただいていたことで、気持ち的には楽になれました。
こうして私は「頑張って元気な赤ちゃんを産んでね」という嬉しいお言葉と共に、職場を去りました。
仕事に未練がなかったとは言いません。でも私にとって今は何よりお腹の赤ちゃんが大事だと分かっていますから…退職することにに悔いはありませんでした。


そして現在妊娠も5ヶ月目に入りました。
おかげさまで悪阻もほとんどなくなり、やっと普通にものが食べられるようになった今日この頃です。
過労と悪阻からくる体調不良で、一時は体重が8キロほど落ちました。洋服が予想外のサイズダウン、結婚指輪もくるくる回るほど、指まで痩せましたから。
それでなくとも過保護な剛さんは、それはもう心配してくれました。
体が辛くて何もできず、家事を全部放棄して、寝込むこともたびたびあったのに、文句も言わずに手を貸してくれた優しい夫に心から感謝しています。

あなた、本当にありがとう!



そんなこんなで、私が専業主婦になってひと月が経ちました。
朝から快晴。梅雨入り前の、五月晴れ。絶好のスポーツ日和です。

今日は剛さんも出場する、テニスクラブの親睦試合です。
彼のほかにも、同じ医局の同僚の方が数名出られるとのことで、私も応援に行くことにしました。
順当に勝ち上がれば午後からも試合があるので、お昼は持参です。
同僚の方や友人も一緒にお弁当を広げる予定と聞き、頑張って早起きして腕を振るいました。
朝の8時前、大方おかずは作り終わりあとは冷まして重箱に詰めるだけです。
その間におむすびを握るのですが、かなりのご飯の量です。多分結婚してから初めてじゃないかな、一升ものお米を炊いたのは。


「おはよう」
炊飯器の蓋を開け、炊き上がったご飯を混ぜていたら、前日も遅くまで仕事だった剛さんがやっと起きてきました。
「おっ、美味そうだな。これ摘んでいいか?」
早速おかずをつまみ食いです。
「たくさん食べたらだめだよ。入れるのがなくなっちゃう」
彼は私の言葉に笑いながら、次々におかずを口に放り込んでいきます。
「起き抜きからよくそんなに食べられるわね」
「お腹が空いてるんだよ、昨夜もしっかり運動したから」

それを聞いて、私は思わず顔が赤くなります。
昨夜、彼の帰宅が遅かったので、お風呂と食事だけ準備して私は先に休みました。早起きしてお弁当を作らないといけませんからね。
剛さんが帰ってきたのは多分12時過ぎくらい。
私はもうベッドに入っていたので、「お帰り」だけ言うと、そのままうつらうつら寝入っていました。
しばらくしておぼろげに、彼がベッドに入って来たのを感じました。

「木綿子、もう寝た?」
「うぅ…ん」
背中を向けていた私は、半分眠ったような状態で、彼の方に寝返りを打ちました。ほとんど意識はなく、半ば条件反射です。
その時あろうことか彼の手は…すでにこっそり私のパジャマの裾から忍び込んでいました。
彼の器用な指先で、妊娠してから特に敏感になった胸のあたりをさわさわと撫でられると、無意識に身体が反応してしまいます。
こうなってしまうと、もう私は抵抗できません。最早彼の思うがまま。
身体がすぐに準備OKになってしまうあたりは、以前の自分には考えられなかったことです。あっという間に彼に中に入り込まれ、あとはもうなし崩しでした。

「もう、明日早起きしないといけないのに」
ことが終わり、剛さんを恨めしげに睨みましたが、満足げな彼はどこ吹く風といった感じです。
「だから今夜はこのくらいにしておくよ。でないと木綿子起きられないだろう?足らないなら、俺もっと頑張るけど」
それはとっても恐ろしいお言葉。
彼の言う「起きられない」とは単に目が覚めないだけでなく、プラス「足腰が立たない」を意味するのですから。
「もう寝る…」
私が半分ふてたように彼に背中を向けると、剛さんが笑っているのを身体の振動で感じます。
彼は私の背中に体を寄せると、大きな手でお腹を包むように抱いてくれました。
「お休み」
何だかんだ言っても二人でぴったりくっついて眠るのは心地よく、私はそのまま安心してぐっすり眠りました。


− ◇・◆・◇ −


試合会場に行くと、すでにたくさんの人で、観客席はかなり埋まっていました。
私たちは先に来て場所を確保してくれた同僚の方の所へと向かいました。
彼らは妊娠中の私に気を使い、日陰になる席を取ってくださっていました。お気遣いがちょっぴり嬉しかったです。

試合は白熱しましたが、剛さんのペアは準決勝で敗れました。
ここのところあまり練習していなかったことを考えると、まぁまぁの成績かなと本人も言っていました。

そしてお待ちかねのお弁当タイム。
涼しい木陰にシートを敷いて、皆さん思い思いにお弁当を広げています。
私たちのグループも持ち寄ったお弁当やデザートを中央に寄せ、輪になるように座りました。
おかずは真ん中に、おむすびが入ったタッパーは順々に回して各自に取っていただきます。
皆さんに行渡ったところで昼食開始。

事件はこの時発覚したのです。



(※)tragicomedy = 悲喜劇




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