春の日差しが木々の間から漏れ零れる4月。 剛と木綿子の結婚式が行われた。 鮮やかな花々に彩られたチャペルには多くの参列者が集い、二人の新しい門出を祝った。 父親と並んでヴァージンロードを進む木綿子の後ろでは、フラワーガール役を仰せ付かったまゆが神妙な顔つきでしずしずと歩いている。 もうすぐ6歳になるまゆは、この大役を完璧にこなそうと彼女なりにいろいろと頑張った。今日のドレスや髪を飾るリボンも自分で選んだし、祖母に強請ってピンクのリップまで塗ってもらっていた。ますますおしゃまさんに磨きがかかってきたようだ。 結局、まゆはこのまま市瀬の両親が育てることになった。 剛と木綿子が養子にすることも考えたのだが、まゆ本人が今の生活を続けることを望んだのだ。 持ち前の人懐っこさで石崎の祖父母ともすぐに打ち解け、時々泊りがけで遊びに行くような付き合いができるようにもなった。 まゆの戸籍については現在申請中で、空欄になっていた父親の名を記載できるよう、両家の親がいろいろな方面に働きかけているところだ。 そして今、まゆの元には2つのリングが託されている。 失くしては大変だと言って、いつも幼稚園に行くときは、お気に入りのキャラクターのついた宝石箱に大事にしまってから行くのだと母が笑って教えてくれた。 今日はそのリングも、まゆと一緒に式に参列している。 式の後、みんなに祝福されながら教会を出た木綿子の目に、まゆの首に掛けられた鎖から下がる2つの指輪が光るのが映った。 それを見た木綿子が涙ぐむのを隣に並ぶ剛が気遣い、ハンカチを取り出す。 「どうした?」 「リングでしか一緒になれなかった麻実たちが可哀想で。本当なら二人もこうしてみんなに祝福されたのに、って思うと…」 周りに冷やかされながら、剛が木綿子の目元をハンカチで優しく拭う。 「でも、そのリングに込められた二人の想いが二つのリングを引き寄せ、そして俺たちを引き合わせたんだ。そして今、それをまゆちゃんが大切にしてくれていると思うと、優希たちが一番望んだ場所に二人がいると思わないか」 「そう、そうよね。麻実たちは今、二人一緒にいるのだから、可哀想なんて思ってはいけないよね」 「ああ。優希と麻実さんもどこかで、俺たちと同じように幸せな気持ちでいてくれると思いたいよ」 麻実が作った二つのリング。 一度は離れ離れになってしまったけれど、リングに込められた想いの強さが再び互いを引き寄せた。 遠く離れても二人の心は一つ。 その願いが今、叶う。 未来に託された希望の祈り。 『 どうか愛する人たちが皆、幸せになりますように 』 〜 終 〜 HOME |