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Romance Writer’s Love Story

chapterT 香澄のstory 4



さわさわと肌を掠める感触がくすぐったい。
「ん、あとちょっとだけ寝させて」
まだ半分寝ぼけた頭で悪戯な手を払おうとした香澄は、違和感に気付いた。
手が動かない。
「目が覚めた?」
驚いて急に覚醒した彼女の目の前にあったのは、覗き込む慎介の顔だった。
「もう、びっくりするじゃない。いつの間に帰ってきたの?それよりも私の手が…」
いや、おかしいのは手だけではなかった。
正面から彼と触れ合っている部分全てが、人肌に湿り気を帯びている。
私、裸だ…。
「やだっ、私のパジャマ」
にやりと笑った慎介の顔がどこか悪魔っぽい。クールな顔立ちだから、尚更凄みがある。
「あれ、お気に入りのシルクのパジャマなのに、どこにやったの?」
「要らないから脱がせておいた。心配しなくてもちゃんと畳んでおいてあるから、ついでに下着もね」
「嘘!?」
密着している身体を引き剥がし、視線を落すと、そこにはあるべきものがなかった。
「やだっ、私のパンツ、返してよ!」
「パンツだなんてそんな色気のない。せめてパンティと言ってほしいなぁ」
『ズロース』っていわないだけマシよ、と的外れなことを心の中で叫びつつ、自由にならない手を何とかしようともがく。彼女からは見えないが、慎介のネクタイで後ろ手に軽く縛られているのだ。
「無駄なことはしない方がいいよ。それに、もぞもぞ動くたびに胸を突き出して、誘ってるの?」
いつもの彼ならこんなことはしないし、言わない。どうなってるの?


慎介は、戸惑う香澄に抗う間も与えず、彼女の片脚を持ち上げると自分の腰に巻きつける。
隠すものがない脚の間に彼の熱い昂りが滑りこむと、たまらず香澄は息を呑んだ。
もうこんなになってるなんて。
慣れ親しんだ習慣で、慎介との睦み合いは徐々に互いの体を高めてから始まるのに、今日はいつもと違う。彼女はまだスタート位置にもついていないのに、慎介はもうGOサインを待つばかりの状態になっているのだ。
「いやだ、こんな格好」
恥らい、何とか脚を閉じようとする香澄のお尻を抱えると、彼は自分の猛りを彼女の脚の間に擦り付けた。その間にも彼の手は香澄の身体を余すところなく這い続けている。
彼のリードはいつもながら巧みで、見る間に自分の身体が熱を帯び、秘所が潤ってくるのを感じる。
「ほらもうこんなに濡れてきた。香澄のここは本当にかわいいね」
こんなセリフを今まで言われたことがない。戸惑いと羞恥、それに自由にならない手のもどかしさに過敏になった身体は、どこに触れられてもそれだけで肌が粟立つ。

「さあ、行くよ、覚悟はいい?」
彼は耳元でそう囁くと、いつものように少しずつ慣らしながらではなく、一気に自分を突き入れてきた。
鈍い衝撃が下腹部を襲う。
それはいつも抱き合う時よりも数段奥深くに当たるように感じた。
しかし、ショックはそれだけで済まず、彼は巻きつけた方の太腿を抱えると、より一層大きく彼女の脚を開かせたのだ。

「ほら、見てごらん」
ぼんやりと言われるままに目を遣ると、彼に貫かれている自分の身体が目に入る。
目の当たりしたそれは、驚くほど淫らな光景だった。
『出入りする彼のものが、ぬらぬらとした光沢を…』
朦朧とした頭の中をそんな小説のフレーズが漂う。現実とは思えないが、これは明らかに彼女自身の身に起きていることなのだ。
「目が離せない?」
弄るような慎介の言葉に、恥ずかしさのあまり、自分の内側がぎゅっと締まるのを感じる。
「そんなに締め付けないで。すぐにでもいきそうなんだから」
堪えるように眉根を寄せた彼はそう言うと、更に大きく脚を抱え上げ、最奥の方を突き上げてきた。
香澄の口から悲鳴が漏れる。いつもならば、すぐにソフトな抽送に変わるはずの彼の動きが、ますます早く激しくなっていく。

もう、だめかも…。
普段よりも早く来そうな限界に抗いながら堪えていると、やっと彼の煽りが少し穏やかになったように感じた。
よかった。
上った息を整えながら香澄は思った。まだ昇りつめたくなかった。
もう少しで良いから、いつもと違う荒々しい彼を感じていたかったのだ。
と、一息ついた慎介が急に腰を引き、繋がりが引き剥がされたと思ったら、身体をうつ伏せに転がされた。そして、それに驚いている間に背中に彼の重みを感じると同時に、今度は後ろから入り込まれた。
「ひっ」
今までと違う場所を刺激され、脚が引き攣り背中が撓った。
お腹に回された手で腰を引き寄せられて、自分がお尻を突き出したとんでもない格好をしていることは分かるのだが、抗おうにも身体に力が入らない。
朦朧とした意識の中で香澄は思った。
後ろからなんて今までしたこともないのに、やっぱり今日の彼はどこか変だ。

真夜中のシンとした部屋に、二人の荒い息使いと体を打ち付ける音だけが響く。
「もう、だめ…」
先に達した香澄が身体を震わせ脱力すると、背中でも追いかけるように慎介が唸りを上げて果てたのを感じた。


「…一体、今日は、どうしたの?」
息を切らせた香澄が、切れ切れに問う。
やっと拘束を解かれて自由になった手は、無意識に彼の髪を梳いていた。
今夜の慎介は、全てがいつもと違った。言葉や動き、それに弄るような態度。
「ちょっとしたスパイス」
彼は平然とそう答えると、仰向けになった自分の上に香澄を抱き上げる。
いつもなら一度終わればそのまま寝入ってしまうはずなのに、彼はまた動き始めていた。
「ちょ、ちょっと」
バランスを取ろうと慌てて慎介の胸に手をつく彼女の腰を支えると、彼は強引に香澄の身体の向きを変えさせた。
「もっとしっかり固くしてよ。香澄の手で」
目の前にあるものに戸惑いながら、彼女は動けずに固まっていた。
そりゃぁ、何度かしたことはあるけれど、いつも彼自身をまともに見ないようにしていた。こんなアングルで真正面からまじまじと、彼の分身を見たのは初めてだった。
「ほら、香澄ももっとこっちへおいで」
足首を掴まれてあっという間に彼の方へ引き寄せられる。
ちょうど互いのものが目の前にくる状態。
こ、これって噂に聞くシックス○○○ってこと?(脳内で自己規制)
どうしようかと悩んでいるうちに、慎介が彼女の脚の間を弄り始めた。
指で中を探られ、舌で敏感な核を転がされる。知らずに自分の腰が揺れ、彼が動かしやすいようにお尻を突き出しているのに気付いた彼女は羞恥の余り身悶えした。
「いやだって、恥ずかしいじゃない」
だが、逃げようと身体を捩る香澄に、彼はこう言い放ったのだ。
「僕だって見られているんだからお互い様だろう?さあ、早く僕にも触って」
よく分からない理屈だが、それでも促されておずおずと彼に触れる。
こういう時、小説のヒロインならどうするだろうか。
『大胆に掴む』?『手で扱く』?それとも『口で』…。
香澄は急に、何だかうじうじと考えるのが嫌になってきた。
今日の慎介は『異常』だ。それなら今夜一晩くらい、自分も羽目を外しても良いではないか。
そう、まるで今書いている小説のヒロインのように。

「うわっ」
いきなりの攻撃に慎介が悲鳴をあげた。
大胆にも、まさか香澄が口を使ってくるとは予想だにしていなかったのだ。
「おい、こらっ」
肩越しにちらりと彼を見た香澄は、にっこりと笑うとそのまま分身の先端から窪みまで舌を滑らせた。
以前彼が教えてくれた。自分が一番弱いのはここだと。
一気に慎介の体から汗が噴出す。
今まで浮かんでいた余裕の笑みが消え、ぎらつく目で彼女を見つめている。
『全身からギラギラした欲望を滲ませた彼が…』
そういえば、以前書いた中にこんなフレーズもあった。今、彼はまさにそんな状態になっているように見える。
こんな切羽詰った表情をした慎介を見たのは初めてだった。
いつもの憎たらしいほどのクールさが消え、自分の動きに合わせて悶える彼を見ると、自然に自分も興奮してくる。
何だかよくは分からないが、とにかく今日は二人ともいつもと違う。
お互いに今まで抑えてきたものが一気に噴出したような、そんな感じだった。

暫くの後、向き合って座位のまま再び体を繋げた時、慎介の表情にはいつもはない満足感が表れていた。
「やっぱり君は最高だ。僕はもう香澄しか抱けない」
体の重みで深く貫かれながら耳元で囁かれた言葉に、香澄の気持ちは舞い上がった。
ちょっと控えめだけど、小説の中でヒロインが浴びる賞賛の言葉ってこんな感じかな。
「うれしい。そんなこと初めて言ってくれた…」
少し恥ずかしそうに顔を赤らめながらそう言う彼女は、いつもの香澄だ。
だが、彼の突き上げに合わせて髪を振り乱し、腰を振る大胆な彼女もまた本当の香澄に他ならない。

慎介は思った。
やっとさなぎから抜け出た蝶さながらに、一年かかってようやく彼女は自分を解き放つ術を得たようだ。これからはもっと自由に大らかに、愛し合えるようになるだろう。
今からそれが楽しみだった。


その夜、二人は文字通り夜を徹して愛を交わした。
結局使った避妊具は半ダースの半分の3つだったが、それでも充分満たされて、愛情を確かめあえることを、身をもって教えられた香澄だった。




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