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『My ☆ Sugar Babe』 番外編

おひな様 ☆ らぶ  後編



部屋着のチュニックのお腹から上は、グレーっぽいシミがべったりとついていた。
「やっちゃったなぁ……」
脱いだそれを広げてみると、広範囲な汚れに改めて気づかされる。
洗面台に湯を溜め、そこを摘まみ洗いして、何とかその部分をきれいにした。
「あとは家に帰ってもう一回洗い直すか」
ふと見れば、上の服だけでなくブラジャーにも水分がしみ込んでいるようで、何となく胸のあたりが湿っぽい感じがする。
「仕方がない、こっちも手洗いしておこうっと」
萌は着けていたブラジャーを外すと再度栓をして湯を溜める。そしてここにある洗濯洗剤をちょっと拝借しようと洗面台の下から取り出した。と、ちょうどその時、突然ドアが開き、そこから郷原が中に入って来たのだ。

「キャーーーー、まだ入って来ちゃダメですぅ」

何せパンティ一枚身に着けただけのあられもない格好だ。
咄嗟に両手で剥き出しの胸を隠したが、恥ずかしさに体中が赤く染まった。隠すタオルを取ろうにも、両手が手ブラで塞がっていてどうにも身動きが取れない。
それに、いつもならすぐに出て行ってくれるはずの郷原は、その場に立ち尽くし、自分を見たまま動こうとしなかった。
「すっ、すぐにお風呂に入りますから、ちょっと待ってください」
何とか体を捩って横に動き、風呂場に通じるドアを開けようとした時だった。
「……メグ」
郷原は出ていくどころかこちらに近づいてきて、いきなり彼女を抱きしめたのだ。
「ゴメン。もう限界」
それだけ言うと、彼は萌をさっと抱き上げ、開いていたドアから廊下に出た。
「ご、郷原さん?あの、まだ私お風呂が」
「後でいい?」
「上半身コーラまみれなんですけど」
「いい。僕は気にならない」
「そうじゃなくて……」
連れてこられたのは寝室だった。そこで彼は萌を下ろすと、大きく息をついた。
「メグは嫌か?」
「何が?」なんて無粋なことは、たとえ天然100%の萌でも聞き返せない。今の郷原はそんな切羽詰まった表情をしていた。
「嫌……じゃない、です」
もちろん、それは彼女の本心だ。
何といっても彼を「逆ナン」した最大の理由は初体験の相手になって欲しいというところにあったのだ。そんな始まり方をした彼女の憧れは、今や本物の恋愛となり、郷原は萌にとって初めて「恋人」と呼べる男性となったのだから。

「でも私コーラでベタベタしていて。お、お布団が汚れちゃいますよ」
「心配しなくても布団に着く前に全部舐め取ってやる」
本気か冗談か分からないことを言いながら、彼は萌の背中に腕を回して自分の方へと引き寄せて唇を重ねた。ここまではもう何度も許してきたことだ。だが、今夜はこれだけで収まりそうにない。
彼も、そしてまた、自分自身も。

「私まだお風呂に入っていないから、今日一日分の汚れがついたままなんですけどぉ」
乱れた息を整えようと離した自分の唇が僅かに震えているのを感じる。それを気づかれないように、彼女はわざといつもの調子で言った。
「いい。そのくらい汚れたうちに入らない」
「お化粧も落としていないし」
「もう口紅は半分以上落としたぞ」
どうやら今のキスで、口紅はほとんど彼に舐め取られてしまったようだ。
「あ、あの郷原さん?」
「何だ?」
上目づかいにちらりと見上げた彼もまた、どことなく強張った顔をしている。
「お手柔らかに、よろしくお願いしますっ」
「え?あ、おうっ、分かった」
彼は鷹揚に頷くと再び彼女に唇を重ねた。
その間にも彼の手が、剥き出しの背中を何度も撫で下ろす。そうされると、初めて直に触れられた肌は彼の動きに合わせて粟立っていった。
「あっ」
そっとベッドに押し倒された萌は、ひんやりとした布団の感触を感じ、思わず身体を強張らせた。
「冷たいか?」
「ちょっとだけです」
「少し待ってろ」
郷原はベッドを覆っていた掛布団を引き下ろすと、毛布を引っ張り上げてその上に彼女を横たわらせた。
「これでいいだろう?」
「……はい」
躊躇いがちな答えに苦笑いした彼が、ゆっくりと圧し掛かってくる。胸を覆っていた手を剥ぎ取られ、代わりに郷原の口がその頂に吸い付くのを見た萌は、無意識に両足を擦り合わせた。
「んっ」
今まで経験したことのない感覚が熱となり、身体の真ん中から下半身に向かって流れていく。胸だけでなく、鎖骨のくぼみや耳の後ろにも丹念に唇を這わされ、首筋から肩のラインに向かって舌でなぞられると彼女の背中が大きく撓った。
「あっ、そ、そこは……」
腰のくびれを撫でていた彼の手が、お腹へ、そしてその下に移ってきたのを感じた萌は反射的にきつく足を閉じた。それでも指先はその間に忍び込み、下着越しに彼女の大事な場所を弄ぶ。
「ここが何?」
良いような、それでいていけないことをしているような妙に後ろめたい気持ちが入り混じり、萌は複雑な表情で彼を見た。
「いえ……あんっ」
強く弾かれた場所からもたらされた快感が全身を貫く。
「ここがどうした?」
郷原は分かっていながらわざと意地悪く彼女を追い詰めていく。
「あ、何か」
「ん?」
「何か変……なんです。身体がふわふわして、お腹の中の方がむずむずする感じで、それで……」
「それで?」
「気持ちいいけど気持ち悪くて」
「そりゃ複雑だな」
彼女の表情が変わったのを見計らった郷原は、片手をウエストに回して萌の下着をゆっくり足から引き抜いた。そしてそのまま位置をずらし、自分の体を彼女の足の間に収めると今度は直に彼女の足の間に触れ始める。
「な、何かやだ」
「いや?でもいいんじゃないのか?」
少しだけ入り込んだ指先を押し戻そうと力が入った萌の下半身を宥めるように、郷原が身元で囁く。
「痛い?」
「ううん、痛くはないです。でもやっぱり何か変」
郷原の首にぶら下がるようにして背中を反らせた彼女は、彼の肩口に顔を擦りつける。
「メグ、ちょっとだけ離れるぞ」
「へっ?」
なぜと問いたそうに見上げた彼女の表情に煽られた郷原は、ぐっと腹に力を入れてそのまま押し入りたい衝動を抑え込んだ。
「準備する」
「準備、ですか?」
「そう。ちょっとそのまま待ってろよ」
彼は首に回された萌の手を解くと、反り返るようにして体を起こす。そして目覚まし時計の向こうに放り出してあった箱を開け、中から小さな包みを取り出して、封を切った。
「もしかして、これ」
「そうあの時に買ったまま、ここに投げてあったんだ。仕舞い込まなくてよかったよ」

それは半月ほど前、バレンタインの時に鼻から大出血を起こし動けなくなった郷原が、満を持して買い置きしていた避妊具だ。あの時これをベッドサイドで見つけた萌が興味深々で封を開け、中身を引っ張り出してみたのだが、その後も使われることなくここに置いたままになっていた。

「それじゃ、始めるよ。ゆっくりな」
ぺろりと頬を舐められて、思わず笑った萌だったがそれも束の間、すぐに経験したことのない圧迫感を感じ始め、身体が固くなる。
「あた、たたた、たたぁ」
多分「痛い」とでも言っているつもりなのだろうが、陸に上がった魚のようにぱくぱく動く口からは意味の分からない言葉しか出てこない。
それは郷原も同じで、彼女の中の狭くなったところで引っかかり、強烈に締め付けられて、引き抜くことも押し込むこともできず中途半端な体勢のままひたすら耐えるしかなかった。
「メグ、力を、抜け」
「むっ無理ぃ〜力、抜き方分からないですぅ」
「ほら、もっと口を大きく開いて息を吸え」
「す、吸ってますって。ヒーヒー」
「それではヒーヒー言ってるだけで全然吸ってないよ」
「ひーん息の仕方が分からないーーー」
半ばパニックに陥ったらしい萌は、しゃくりあげながらそれでも何とか力を抜こうとあがいていた。
「こうなったらもう突っ込むぞ。メグ先に謝っとく。ゴメン」
郷原は上に逃げようとする彼女の腰をがっしりと抑え込むと、一気に体重をかけて自身を中へと捻じ込んだ。
「……」
押さえ込まれた萌は目を白黒させながら、何もない宙を見上げていた。
「……入った」
「……」
「おい、メグ。大丈夫か?生きてるか?」
「……は、い。何とか」
「あんまり反応がないから、息をしてるのか心配になったぞ」
「あ、暑くて」
まだ3月初めだというのに、気が付けば二人とも汗を流していた。
「これでも暖房入っていないんだけど」
「心臓がドクドクいってて」
「確かに脈拍が早いな」
「おまけに……いっ痛くて暴れ出しそう、です」
「ゴメン。こっちは良過ぎて昇天しそうだ」
「死んじゃいやですよぉ。初えっちで相手に腹上死なんてされたら一生立ち直れません、私」
情けなさそうな顔をした郷原に、萌が何とか笑顔を作って見せる。
「お、ちょっと緩んだか。メグもうちょっとだけ……な」

郷原が体を引くたびに萌が腰を浮かせる。それが心地良いためではなく、単に擦られる痛みから逃れようとする動きであることは分かっていたが、彼女は一言も彼を責めることなくじっと耐えているようだ。
そんな萌の様子を見た郷原は、今までよりも一層彼女を愛おしく感じていた。
そして遂に果てた時、彼女の上に崩れ落ちそうになる体をずらそうとした郷原は、思いがけない力で萌の胸に引き寄せられた。
「潰れるよ」
「ちょっとだけ、こうしていていいですか?」
「でも、重いぞ」
「大丈夫です」
彼女は自分が達していないにもかかわらず、どことなく満足げな顔で、彼の短い髪の毛を弄んでいた。
「ゴメン」
「何で郷原さんが謝るんですかぁ?さっきからそんなのばっかりですねぇ」
「だが、僕だけ良かった」
「あ、でも私もちょっとだけ良い感じでしたよ」
「でも辛い方が大きかっただろう?」
「うーん。確かに痛かったですけど……何か幸せな気分になりました」
「幸せ?」
「そうですよ〜これで晴れてちゃんと郷原さんと恋人同士になれたって感じがして、それが嬉しいですぅ」
「そうか。そう言ってくれて良かったよ」
「はいっ」

何とか動けるようになった郷原はゆっくりと起き上がるとベッドの縁に腰をかけて自分の後始末をする。バレンタインの時とは違って事前に何の用意もしていなかった今夜は、身体を拭うタオルさえ手元に置いていなかった。
「それじゃ、メグ。風呂に行くか?」
「はい。何か汗をかいちゃったので、早く流したいです」
そう言いながら起き上がろうとして、萌は上手く身体に力が入らないことに気が付いた。
「ありゃりゃ」
立とうにも足にも力が入らない。それを見た郷原が笑って彼女を抱き上げてくれた。
「風呂まで連れて行ってやるよ」
「助かります」
「そんなに簡単に感謝するなって。ついでだ、ついで」
「つ、ついでぇ?」
「偶然だが僕も風呂に行くところだったんだ。ちょうどいいから一緒に行こう」
それを聞いた萌の顔が強張った。
「もしかして、郷原さん一緒に入る気じゃ……」
「もちろん。こんなメグを一人で風呂場においておくわけにはいかないからな。心配しなくても、ちゃんと隅から隅まできれいに洗ってあげるから」
「そんないいですぅ」
「遠慮するなよ」
「遠慮させてくださーーーい」


こうして何とか無事?一線を越えた郷原と萌。
この夜は二人の9か月越しの大願成就となった。
この後風呂場でどうなったのかは神のみぞ知るということで。

ただし、翌日は仕事だということを忘れないようにね、郷原クン。



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