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月の宴 華の乱 その五 



「お方様」
気遣わしげにこちらをうかがう侍女に、鈴は無理やり作った笑みを向けた。
「案ずることはない。いくら蛮人でも命まで取りはすまい」

屋敷奥の寝所。
畳の上に延べられた敷布の側に座る鈴は、秋風に揺れる庭の木々の影を静かに眺めていた。

今、側に控えるのは侍女の千代ただ一人。
先の謀反騒ぎで生き永らえた女子の一人だ。
年は二十二、先だっての戦で夫を、騒乱の中でまだ幼かった弟を亡くした。
自らの子もなく天涯孤独の身となった彼女は、連れてこられた本館で鈴の目に留まり、新たに側付の侍女となった。
千代の父は先代の相良家の薬師(医師)だったが、跡継ぎに恵まれず、遅くにやっと授かった息子に跡を継がせる前にこの世を去った。千代はその父から生薬の知識を得て、弟に伝える役目を託されたが、それも果たせぬまま弟を失ってしまったのだった。


「千代、例のものは用意できましたか?」
千代が差し出す小さな包みを手にすると、鈴は脇にあった椀を取り白湯を口に含んだ。
油に芯を差しただけの質素な灯りが色を失った女主の顔に暗い影を作る。

「お方様…」
心配そうにその様子を見つめる千代。
包みを解き、粉を口に流し込んだ鈴はそれを飲み下す一時、少し辛そうな表情を浮かべた。

「お千代、これがどれだけ身体に害をなすことかは分っています。でも、こうするしか他に術はないのですよ」
何か言いたげな千代が口を開けようとしたその時、先触れが聞こえ、遠慮のない慌しい足音が響いてきた。
寝所にいた二人に慄きが走る。
無造作に障子が開き、暗闇から現れた大男は、床の側に対座する二人の女を見て喉の奥で笑った。

「今宵、ここで俺の夜伽をするのは鈴姫一人と思うておったが?」
「夜伽ですって?」

その無礼な言い草に血相を変え、咄嗟に主を庇うように立塞がった千代の背に鈴の声が飛ぶ。
「お千代、下がりなさい」
「しかし、お方様、この物言いはあまりにも…」
「良いから下りなさい」

渋々と言いつけに従い、後ろ髪を引かれる思いで閨を後にする千代に、諭すように小声で鈴が語りかけた。
「ここから先はわたくしとあの男の戦場(いくさば)。もう何人たりとも立ち入ることはできないのですよ」


千代に灯りを持って下がらせると、寝所は薄い闇に閉ざされた。

「何ゆえに暗闇を好むかは知らぬが…まあ、手探りもまた一興か」

今宵は下弦の月、遅くに昇る月の薄明かりに空がぼんやりと煙る。
障子越しの明かりに僅かに浮かぶのは、二つ並んで延べられた敷布と花嫁の白い寝装束だけ。
それさえも紐の端を手繰らなければ解くことさえもままならない。

新床に横たえられた花嫁は、ただ身を固くして夫となった男の手を感じていた。
薄い月明かりを遮る大きな体が恐ろしく、目を開けることも容易ではない。
がさついた無骨な手が袷を開き身体を這い回り、湿った唇が遠慮なく柔肌を伝っていく間も、肌蹴られた衣の袖を噛み黙ってその屈辱に耐えた。

と、一瞬体を覆っていた熱が消える。
薄く目をあけると、それまで明かりを遮っていた大きな影は目の前から消え、代わりに視界の端に立ち上がり小袖の帯を解く重定の背中が映った。
肩から衣を落とした様がぼんやりと闇に浮かぶ。
幾多の戦場を駆け抜けてきた強靭な体躯が波打つその逞しさに、彼女の目は暫し釘付けになった。
だが振り返った彼の雄雄しく猛ったものを目にした時、鈴は突然言いようのない恐怖に駆られた。体中が緊張し、思わず膝を固く閉じ合わせる。
無理だ。あんなものを受け入れられるはずがない。

彼女の目に浮かんだ不安と恐れを見た重定は内心密かにほくそ笑んだ。
彼の体は常人より一回りも大きい。もちろん持っているものもそれに見合った大きさだ。
鈴の亡き夫、景之はどちらかと言えば細身で逞しいとは言い難い体つきをしていたから、彼のものを見て怯えるのは想像するに難くない。
今になって慌てているに違いない。
床の中で、どこまであの鼻持ちならない矜持を保ち続けられるかが見ものだ。


巨躯に再び圧し掛かられ、床に張り付けられる。
ぴたりと合わせた膝も彼の硬い太腿で簡単に抉じ開けられてしまった。
思わず漏れそうになるすすり泣きを噛殺し、キッと彼を見据えると、重定はそんな彼女の強がりを面白がるように顔を近づけ唇で口を塞いだ。
息もできず悶える鈴の口内を彼の舌が這う。
その淫らな感触に気を取られていた彼女は、突然突き入れられた下肢の痛みにおののき、悲鳴を上げた。
重定は先端でつかえた猛りを押し込もうと何度も腰を前後に煽るが、入口と同様に狭い中へは容易に入れない。
押し入られるほどに強くなる痛みと圧迫感に耐える鈴の爪が、彼の腕に深く食い込んでいく。
引き攣れる秘所が食い千切られるように痛み、もうこれ以上耐えられないと思った瞬間、重定が自分の体の重みをかけて強引に、彼女の体内を一気に奥まで貫いた。

男の荒い息と、女のか細い呻きが互いの耳に届く。
気がつけば、彼女の頬を涙が伝っていた。

「屈辱の涙か?それとも淫欲を満たされた快楽の涙か?」
零れる雫を舐め取る男の嘲るような問いかけに、思わず鈴は顔を背けた。
体の痛みも大きいが、仇に辱められているという心の痛みの方が今の鈴にははるかに辛かった。
初夜という名の戦の勝敗はあっという間についてしまった。
策を廻らせる間も力で抗う余裕もなかった。
鈴はそんな自分の非力さに、ただ悔し涙を流すしかなかったのだ。

そんな彼女の様子に何かを懐疑した重定は、徐に鈴の膝を抱え込むと彼を受け入れた小さな入口を露にしてそこに手を伸ばした。指先で触れた場所は潤いもなく乾いたままで、痛みのためか小刻みに震えている。

「すぐ済ませてやる。暫し辛抱しろ」
唐突に言われ、何をされるのかと思わず引けた腰を押さえ込むと、彼はゆっくりと動き出した。
緩やかに腰を引いては深々と体内を貫く。うまく状況を飲み込めないまま鈴の身体は彼の思うがままに揺さぶられた。
荒い言葉とは裏腹のゆっくりとした動きは次第に早まり、やがて激しい突き上げに変わる。
身体を捻り折られそうな衝撃に思わず背を反らすと、自分でも知らなかった一番奥深い場所を彼が穿つのを感じた。
その途端、重定は狂ったように腰を振り、最後には鈴の身体に自分の腰を擦り付けて掠れた呻き声上げながら彼女の中で果てた。
体内の奥深いところに子種を放たれるのを感じた鈴を、言いようのない脱力感が襲う。

やっと終わったのだ。

その後すぐに中から彼のものがそろりと引き出されていくのを感じた。
急速に引き込まれる眠りの中で、鈴は安堵に身体を緩める。

長い夜だった。
今は何も考えず、ただ眠りたかった。


灯りを点けた重定は、身づくろいもせず、しどけなく身体を投げ出して小さな寝息を立て始めた妻の姿を目にして苦笑いする。
そこまで無理をさせたつもりはないのだがな。

だが、彼女の中から引き出した己のものを拭った途端、彼は訝しげにその表情を歪めた。
「なぜに…?」

男の疑念を知るよしもない鈴は、穏やかな寝息で胸を波打たせている。
静寂の中、未だ続く宴の奏だけが夜のしじまに微かに響いていた。


☆ ひとこと memo ☆
この時代の婚礼ではすでに、現代の「三三九度」や「お色直し」の原形となるものがあったようです。
婚礼は夜行われ、花嫁は輿に乗って花婿の家に入ります。
(大概の場合、ここで初めて花嫁と花婿は顔を合わせることになります)
現代と違うのは式自体は花婿、花嫁、侍女臈(侍女房)、それに世話をする数人の侍女で行われ、他は一切参列しないということでしょうか。
三三九度等の儀式を終えた新夫婦は手や顔を清めた後、寝所に入りました。
その後、翌日は白装束で過ごし、三日目に色の入った衣装に改めてから、花嫁は初めて花婿の両親、親族にお披露目されたということです。(これがお色直しの原形でしょう)
                        ≪ 参照 : 戦国武将への大質問/歴史の謎研究会(編) ≫

この時代の婚礼に沿って考えると、婚礼、初夜が先で、婚礼の宴(披露宴)は3日目ということになります。
ストーリーの進行上、そのあたりを現代と同じように変えてありますがどうぞご了承下さい。




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