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Lovers Concerto 番外編 2

あなたの側で眠らせて 


「う、んっ……」
起き抜けの気怠さの中、まだ意識が朦朧としている詩音は、目を閉じたまま伸びをしょうとして何かに腕をぶつけた。
「あれ?」
目を擦りながら焦点を合わせたその先にあったのは、彼女の枕の上に我が物顔で広がる黒色の髪と、剥き出しの背中だった。
「……げっ」
そう言えば自分も素っ裸で、何も身に着けていないのを感じる。さらっとした上掛けの感触以外は何もなく、足も胸もお尻も必要以上に解放感たっぷりだ。

しまった。二人とも、あのまま……寝ちゃったんだ。



昨夜、ニコラスが彼女のアパートメントを訪ねてきたのは真夜中近くのことだった。前日までずっと海外公演で地球の裏側にいた彼は、空港からそのまま詩音の元へ来たようで、長旅の疲れと時差ボケでかなり疲労困憊した様子だった。
「どうしたの?」
困惑顔で出迎えた詩音に無言で熱烈なキスをすると、ニコラスはジャケット、シャツ、スラックスと、転々と着ていた服を脱ぎ捨てながら廊下を進んでいく。
「もう、他人んちでストリップしないでよ」
ぶつぶつ文句を言いながら、ニコラス後を追って落し物を拾っていた彼女は、急に立ち止まった彼の背中に顔から激突した。
「あたた。危ないじゃないの」
そう言ってぶつけた鼻を擦ろうとした詩音を、振り返ったニコラスが突然抱き上げ、彼女の腕の中の衣類を床に放り投げた。
「シオン?」
「なっ、何?」
「疲れた」
「なら早く自分の家に帰れば?そうしたらゆっくり寝られるじゃない」
「でも、それじゃシオンに触れられない」
「あっ、当たり前でしょ?私はあなたンちの備え付けの家具じゃないんだからねっ。第一疲れているんだから、そんなこと……」
「疲れているからこそ、シオンが必要なんだ」
「必要って、なに訳の分かんないこと言ってるのよ」
抱き上げられ、運ばれていく先を悟った彼女は、手足を振って暴れる。
「いいからもう黙って」
そう言うとニコラスはいつになく強引に唇で彼女の口を塞いだ。
寝室に運ばれてもなお、じたばたと抵抗する体を、彼は見た目からは想像もできない強い力でベッドの上に押さえ込んだ。
「うぐっ、はぐっ」
唇を押し付けられたまま圧し掛かられ、身動きができない詩音は、何とか背中を弓なりに反らして上にある体を押し退けようと試みた。しかし身体を浮かせたせいでかえって簡単に着ていたパジャマをはぎ取られてしまう。
「ちょ、ちょっと、ニコラス」
彼女の抵抗も虚しく、剥き出しになりつんと尖った胸の先にニコラスが吸い付く。先端を舌先で転がされ軽く歯を立てられると、その刺激に詩音は思わず呻き声をあげ、両手で彼の頭を掻き抱いた。
「そうだ、シオン。俺を拒むな」
忙しなく身体を撫でまわす手が下に降りて行き、彼女の足の間に忍び込む。
いつの間にか着けていた下着もどこかにいってしまい、その代わりに彼の手が我が物顔で茂みの中を行き来しながら彼女の敏感な場所を擦りあげた。
「あっ、そこ、ダメだって」
「ダメ?でもほら、感じているんだろう?腰が揺れてるよ」
図星を指された詩音は、頬を赤く染めながら、潤んだ目で彼を見上げた。
「ヤなこと言わないで。恥ずかしいじゃない」
強がる彼女を焦らすように、ニコラスは親指で核を押し潰しながら長い指を一本、するりと身体の中に差し込んだ。
「はんっ」
奥に感じる強い異物感に抗い、それを押し戻そうと彼女の内壁が大きくうねる。
「相変わらず良い締め付けだな。指をもぎ取られそう」
軽く曲げた指先で内側を擦られて、詩音が身体を撓らせる。
「そ、それ困るんじゃない?」
なおも与えられる快感に抗う彼女は、ぐっと身体に力を入れて彼の手の動きを封じるように両足を固く閉じようとした。
「何が?」
「商売道具、大事な指をもがれてピアノが弾けなくなったら……んっ」
抵抗虚しく再び足を押し開かれると、中に差し入れる指を増やされた。
「まったく、本当に口が減らないね、シオン」
余裕があるのか、はたまた強情さに呆れているのか、ニコラスは苦笑いを浮かべながら彼女を見下ろしている。
「それでは、仰せのとおりに『大事な商売度具』は温存して、こっちで」
そう言うと、彼は側にあるナイトテーブルの引き出しから小箱を取り出す。そして中から出て来た小さな包みを一つ引きちぎり、その端っこを咥えて口を切った。
「はい、お待たせ」
あっと言う間に準備を終えたニコラスが、再びベッドに磔にした彼女の中に少々強引に押し入った。
「ちょ、ちょっとニコってば」
「ううん、やっぱりシオンの中って気持ちいい。特に久しぶりだし。一か月?ぶりいや、もっとかな」
ニコラスが恍惚とした表情を浮かべながらゆっくりと腰を揺らす。最初は戸惑っていた詩音も良い場所を彼に突かれると、否応なしに身体が反応し始める。
相手の感じるところを探りながら互いを高めていく二人。
その夜先に白旗を上げたのは、疲労の溜まっていたニコラスの方だった。
「うわ、シオン、そんなに締めたら、ダメだって」
耐えきれず二度三度と大きく腰を煽ると、ニコラスは詩音の奥深くで熱を吐き出し、そのまま彼女の身体の上に沈み込んだ。それを見た詩音は勝ち誇った顔でにやりと笑った。
「ほら、大きなぼうや。今日はもう良い子にして眠りなさい」
それを聞いたニコラスは悔しそうな顔で彼女を見た。
「分かったよ、ママ。もう今日は降参する。その代りこのまま寝るから、抱き枕になって」
そう言うと、ニコラスは身づくろいをしようと起き上がった詩音を背後から羽交い絞めにしてそのまま上掛けの中に引きずり込む。
「もうやめなさいよ。私これからシャワーを浴び直すんだから」
「嫌だね」
「ちょっと、ニコラスってば」
もがく詩音をものともせず、ほんの数分でニコラスは彼女を抱いたまま眠りにおちた。
「よっぽど疲れていたのね」
こんな風にことりと寝入った彼を見たのは初めてだ。
眠りが深くなったのを見計らって、身体に回された彼の腕を解こうとした詩音だったが、思いのほかしっかりと抱えられていて身動きがとれない。
それでも何とか腕を外したものの、今度は眠っているはずの彼の両足が彼女の足を押さえ込んでくる。
「ったくもう」
仕方なくそのまましばらく一緒に横になっているうちに、背中から感じる人肌の温もりが詩音を眠りに誘い始める。こうして久しぶりにニコラスの側で眠れるという安心感に、彼女もまた深い眠りに落ちて行った。



そして翌朝。
「イテッ」
詩音の伸びパンチをもろに頭に受けたニコラスが、彼女の隣りで不機嫌そうに声を上げた。
「何だよ。まだ起きる時間じゃないだろう?」
側に置いてある時計で時刻を確認した彼は、大きなあくびをしながら彼女の方に寝返りを打った。
「あなたはお休みでもいいんでしょう?でも私は今日も授業が……」
「サボっちゃえよ」
ニコラスはそう言うとにやりと笑って彼女を再び抱き寄せる。
「今日は終日自主休講」
「ええー?」
「ということで、今から昨夜の続きを」
それを聞いた詩音の顔が一瞬で強張った。
「続きって、あれで終わりでしょ?」
「まさか、一晩休息してチャージしたから、ほら、朝から準備OK」
隔てる物がない二人の間で彼のものが強く下腹部を突く感触に、思わず彼女の腰が引ける。
「うそっ」
「嘘だと思う?なら試しにやってみようか」
「いい、止めておく」
「そんな遠慮するなよ」
「いらないって、もうやだって!」
本気で逃げ腰になっている詩音を見て、ニコラスが含み笑いをしている。
「それならもう少し二人でこうして転がっていたい。それだったらいい?」
一時は朝っぱらから彼にバリバリ食われることも覚悟した詩音は、その言葉に安堵を滲ませる。
「そ、それなら」
「ん、分かった。それじゃ、もう少しこのまま眠らせて」
彼女を腕の中に収めたニコラスが、微笑みながら再び目を閉じる。その姿を側で見ていた詩音もまた、彼の温もりに身体を預けながらゆっくりと眠りに誘われていったのだった。




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