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復讐は甘美な罠 epilogue


―― それから25年後。

カリフォルニアに移り住んだサマンサの元に、今年もクリスマスカードが送られてきた。
差出人はアレックス。
彼は大学で経済学を学び、経営学の修士課程を終えると、昨年、父の後を継ぐべくビジネスの世界に飛び込んだ。
父親のグラントは、常々彼には好きなことをすればよいと言っていたようだが、敢えてアレックスはこの世界を選んだ。


アレックスはハイスクールに入った年に、自分の出生の秘密をグラントとレイチェルから知らされた。
それまで叔父と叔母だった人たちが自分の本当の両親だったと知っても、別段、彼にはどこも変わることがなかった。自分がどれだけ今の両親に愛情を注がれているかを分かっていればこそ、その必要もなかったからだ。

不思議なことに、見たところ、兄弟たちの中で一番グラントに似ているのは他ならぬアレックスだった。
あとの兄弟たちは皆、父親と母親の見た目を半分ずつ受け継いでいるが、彼だけは瞳の色や髪色、顔立ちまでがグラントそっくりで、誰が見ても親子だと言われた。


サマンサは封筒を開けると、鮮やかな色のカードを取り出す。中には几帳面な文字で綴られたメッセージが添えられていた。



親愛なるサムおばさん、お元気ですか。
僕と家族は相変わらずの毎日を送っています。


父は今も多忙ですが、最近少しずつ仕事の量を減らしています。その分僕の方に回ってきているように思うのですが、まぁそれは仕方がないことかもしれません。
父は相変わらず母にべったりで、少し鬱陶しがられています。

母は今年の春からグエンドリン・ハミルトン記念病院の総看護師長に就任しました。
最近は現場に出るよりも後進の教育にあたっていることが多く、今までよりも忙しくなったようですが、母自身は充実した日々を送っているようです。

上の妹のエミリアは無事大学を卒業して、研修医として忙しく過ごしています。
周囲はハミルトン記念病院に勤務するものだと思っていたのですが、彼女は母の影響で医学の道に進んだにも関らず、親の七光りは嫌だと言って、わざわざここから遠く離れたミシガン州の病院を就職先に選びました。

下の妹のカレンはデザインの勉強をしたいと、この秋からパリに渡りました。
フランス男は油断ならぬと父がかなり気を揉んでいますが、当の本人が今は恋愛よりも勉強と思っているようですから、多分大丈夫でしょう。

一番下の弟、ウオルターは来年ハイスクールを卒業します。
本人は海洋学者になりたいと希望しているようですが、母はかなり渋い顔をしています。
ただ、父は好きなことをすれば良いと密かに応援しているみたいです。


そして、僕ですが、来春結婚することに決めました。
相手は小学校の先生をしている、一つ年上の女性です。
僕が一目惚れをして、強引にアタックしましたが、彼女に何とか「Yes」と言ってもらえてほっとしています。
気が強いところは母に似ているらしく、「お前、絶対に尻に敷かれるぞ…」とは父が僕に漏らした一言です。

サムおばさん、結婚式には来ていただけますか?


クリスマスに、
家族みんなからの愛を込めて


アレックス・ローガン・ハミルトン



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