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Chapter U

   スリーピングビューティーの憂鬱  11


ホックを外されたタイトスカートがするりと脱がされ、下に落とされる気配がする。彼の手はそのまま柚季が身に着けていたストッキングのウエストのゴムを越え、下着の上へと指先を滑り込ませてきた。
あ、ストッキングが破れるかも。
一瞬そんな心配が脳裏を過ったが、すぐにそれが杞憂であることが分かる。
器用に腰のラインに沿って手を滑らせた神保の手は、密着したストッキングをいとも簡単に彼女の体から剥がしてしまった。
いかにも使用済みといった感のある、ふんわりと自分の足の形が残るストッキングが靴の転がる床の上に広がるのを見た柚季は、その取り合わせに言いようのない羞恥心を感じた。
かっちりとした黒いパンプスとストッキングと彼のスーツの上着いう職場然としたアイテムに囲まれた自分たちが絡み合っているのは、紛れもなく彼のオフィスだ。
いつもは来客や同僚たちが座って打ち合わせをするその場所で二人は今、互いの衣服を肌蹴け合い、唇を重ねていた。
神保の指先が下着越しに足の間を行き来すると、柚季の口からか細い喘ぎが漏れる。
「声は抑えて」
その声に彼女がはっとすると同時に、誰かの靴音が廊下の向こうから聞こえてきた。
そう、ここはオフィス。
通常より重く音が漏れにくい構造になっているとはいえ、客室のようにプライバシーを守るための遮音性の高いドアを使っているわけではない。
同僚たちが日常の業務をこなしている場所のすぐ側で自分たちが痴態を繰り広げていることに疚しさを感じないわけではなかったが、それでも一度火が付いてしまった衝動を止めることはできそうにない。
ブラウスと共に手繰りあげられたスリップの下から現れたブラジャーもホックを外されることなく上に押し上げられ、零れだしたふくらみを捕えた手が動くたびにその形を変えていく。
左右の胸の先を交互に食まれ、舌先で転がされた柚季は漏れそうになる声を抑えようと強く噛んだ手を唇から剥がされ、首を大きく左右に振った。
「オルガン奏者が大事な指を噛んじゃだめだ。傷になる」
「で、でも声が……んっ」
すべてを言い切らないうちに塞がれた唇がくぐもった呻きを吸い込む。息もできないほどの口づけに痺れ始めた体は感覚が鈍り、下着を剥ぎ取られたのに気付いた時にはすでに神保は彼女の中に入り込もうとしていた。
ひゅっと息を吸い、体を震わせた柚季の緊張を感じつつも、神保は自分の重みを使って容赦なく彼女の内側を侵食していく。ゆっくりと、しかし確実に自分が発する熱を伝えながら彼女の中に自身を埋めた神保は、浅い場所に己の分身を押し付けたまましばらく動こうとはしなかった。
こういう場合、どうしたらいいんだろう。
今まで常に受け身であった柚季は、こうした行為の途中で自ら何かを求めたこともなければ自分から行動を起こしたこともない。
常に与えられることに慣れてしまった彼女は、セックスにおいても自身の主張を持ったことがないから相手が何を考え、何を求めているのかを察することができないのだ。
「あ、じ、神保さん?」
体を繋げたまま上からじっとのぞきこまれた柚季は羞恥に赤くそまった顔に戸惑いの表情を浮かべている。
「どうして欲しい?」
対する神保は、いつもと変わりない調子で囁く様子はまるで今自分たちが情事の最中だということを忘れているのではないかと思えるほどだ。
「ど、どうって?」
掠れた声で聞き返す柚季の頬を撫でると、彼は唇が触れ合いそうなくらい顔を近づけてくる。
「私としてはずっとこのままいても構わないんだが」
そう言いながらも彼は少し体を揺らして彼女を内側から焦らす。
「この、まま?」
「そう。君がどうしたいのか、どうして欲しいのか、言ってくれないのなら、このままだな」
「そ、んな、ああっ」
囁き合うような会話の合間に、意志とは関係なく蠢く内壁の奥が擦られた刺激で収縮する。
「どうして欲しいのか、言ってごらん」
軽く腰を引かれた柚季は、思わず目の前の体に縋りついたが、それでもまだ彼に求め事をするのを躊躇っていた。
「さぁ、柚季、どうする?どうしたい?」
ぎりぎりまで焦らされた柚季の体が解放を求めて震え、腰が無意識に揺れ始めたのを見て取った神保だが、それでも彼は彼女が自身の欲望に突き動かされるのをじっと待っていた。
「……もっと奥まで来て」
やっと聞き取れるくらいの声で、そう囁いた彼女は、同時に自身の腰を浮かせて彼を自分の中へと導いていく。
「そう、もっと深く、中まで」
それを聞いて一瞬ふっと表情を緩めた神保だが、すぐに口を引き結んだ。
口では平気そうなことを言っていた彼もまた、柚季の中で散々焦らされていたせいで、気を抜けばすぐにでも達してしまいそうになっていたからだ。
引き込まれた彼女の内側は熱く、彼を逃がすまいと絡め取る。
それに屈することなく自分を制御することが最早難しいと判断した神保は、柚季の最奥に向けて何度も大きく強く腰を打ち付けた。
「はっ、ああっ」
彼女は最後に小さく叫びを漏らすと、彼より一瞬早く体を仰け反らせる。
神保は柚季がソファーから落ちないようにその体を抱き留めてから、彼女の中で自身を解放したのだった。




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