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蒼き焔の彼方に  prologue 


そこは鬱蒼と木々が茂る里山の奥深く。
今では人が分け入ることさえ滅多にないような場所だった。

一歩ずつ、足元を気にしながら前に進むと、突然目の前に現れたのは、険しい山の岩肌に穿たれた岩室だ。
足場はすでに朽ち果て、崩れ落ちてはいるが、遠目にはそれが小さな社のようにも見えた。

「こんなところに…」

何かに導かれるように歩み寄ろうとする彼女の行く手に、一本の巨大な老木が立ちふさがる。なぜかこの周りにだけは大きな樹木がなく、その木は唯一岩室を守るように、悠然とその場に聳え立っていた。

「教えて。ここはどこなの?一体ここで何があったの?」

太い幹に両手を添え、静かに目を閉じると、意識を木の中に溶け込ませる。
そこで彼女が見たのは、猛火に包まれた建物と逃げ惑う人々の姿。そして更に気を奥に転じれば、今にも焼け落ちそうな館の中には、二人の女とまだ小さな赤ちゃんが取り残されているのが見えた。
「ああ、何てこと…」

彼女がそう呟いた瞬間、燃え尽きた柱が倒れ、女たちの上に屋根が崩れ落ちる。
だが火に飲まれるより一瞬早く、その場に大きな火柱が立った。
「これは…」
息を呑んだ彼女が見たのは、館を焼き尽くす紅蓮の炎ではなく、静かなる焔。
蒼き火は、忽ち大きな渦を巻いてその姿を竜に変え、天高く昇っていった。懐に赤ん坊と、一人の女を携えて。

幹から手を離し、トランス状態から脱した彼女は半分朽ちかけたその老木を見上げた。
「今のは何だったのかしら?」
問いかけた木は沈黙したまま、最早何も語らない。

「こんな所で何をしているんだ?」
その代わりに背後で声がした。
驚いて振り返ると……そこにはいつの間にか見知らぬ一人の男が立っていた。




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